建設業の労災事例

空気分離器内に充填された粒子状断熱剤の除去作業中、断熱剤に埋没し死亡

   

【労災概要】

この災害は、空気分離装置の空気分離器内において、粒子状の断熱剤を除去する作業中に発生したものである。

空気分離装置は、空気を圧縮し、冷却液化し、蒸留することにより、酸素、窒素、アルゴンを分離・製造する装置で、空気吸入管、ターボ圧縮機、空気分離器等の機器で構成されている。

事業場では、この装置におけるアルゴンガスの製造能力が定期修繕前よりも低下したため、 空気分離器(縦10m、横6m、高さ70m)内に充填されている断熱剤を抜き取り、装置内の点検を行うことにした。断熱剤の抜取り作業は、工事を請け負ったZ社の現場責任者Aと作業者B~Hの計8人により行われた。

災害発生当日、Aの指揮で、B~Fの5人が空気分離器に5mの高さごとに設けられているマンホールのうち、地上高さ45mの箇所にあるマンホールから空気分離器内に入り、前日に引き続き、蛇腹ホース2本を使用して断熱剤の抜取り作業を開始した。また、GとHは空気分離器の外で吸引ポンプを操作していた。作業を開始して2時間が経過し、高さ8m分の断熱剤を抜き取ったところで、交替で休憩を取るため、BとCの2人だけで抜取り作業を行っていたとき、Bの足もとがすり鉢状になって断熱剤に埋もれ、Bはそのまま全身が断熱剤の中に埋没した。このとき、一緒に空気分離器内で断熱剤の抜取り作業をしていたCは、離れた位置にいたためBが埋没したことに気がつかなかった。Bは、休憩を終えて戻ったDからの連絡で駆けつけた他の作業者により救出され、病院に搬送されたが、死亡した。

災害発生時、Aは地上高さ40mの位置にあるマンホールから内部を監視していたが、空気分離器内の配管がじゃまで、Bの作業位置まで見渡せていなかった。

断熱剤は、非常に軽い粒状物質で、人が断熱剤の上にゆっくりと足を入れると膝まで埋まるようなものであった。

空気分離器内に入った作業者は、いずれもZ社が用意した安全ブロックに安全帯を掛けて作業をしていたが、この安全ブロックは、墜落等により急激に引かれるとロックするようになっていたが、ゆっくりと引かれた場合にはロックされないものであった。

【原因】

この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。

1 埋没しやすい断熱剤の上に乗って作業をしていたこと

作業者が足を入れると膝まで埋まるような断熱剤の上に乗って作業を行っていたことに加え、断熱剤の吸引によって作業者の足もとがすり鉢状になり、埋没しやすい状態になっていた。

2 作業に適さない保護具を使用したこと

断熱剤への埋没を防止するために安全ブロックに安全帯を掛けて作業をしていたが、この安全ブロックは、墜落等によって身体が落下する速度が一定以上になるとロープをロックしてそれ以上の墜落を防止するもので、この作業のように落下の速度が比較的ゆっくりである作業には適していなかった。

3 作業者の作業状況を監視人が把握できなかったこと

現場責任者がマンホールの位置から空気分離器内部の様子を監視していたが、内部の配管がじゃまで作業者の位置まで見渡せていなかったため、災害の発生を直ちに把握することができなかった。

【対策】

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。

1 断熱剤の上に乗る作業を改め、工程に応じた作業床を設置する等の作業方法とすること

2 上記1の作業方法をとることが困難である場合には、親綱を張り、作業に適した安全帯を使用させて行う作業方法とすること

3 監視人は、作業の進行とともに常に作業状況の把握ができる位置に立ち、異常が発生した場合は直ちに救助や緊急連絡ができるようにすること

【業種】

機会器具設置工事業

【被害者数】

死亡者数:1人

出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害事例 (mhlw.go.jp)

 

万が一、労災事故が起こった場合の労災申請に関して、ご不明点がありましたらお気軽にお尋ねください。

また、他にも労務相談等お困りごとがございましたら、当団体運営の札幌・東京の社会保険労務士法人 Aimパートナーズ (aimgroup-sr.com)へ是非ご相談ください。

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化学プラントの配管内部の洗浄作業中、アクリロニトリル中毒

   

【労災概要】

この災害は、化学プラントの定期検査時に配管内部の洗浄中に発生したものである。

このプラントは、ブタジエンにアクリロニトリルを重合させて製品を合成する設備で、原料重合→未反応ブタジエン回収→濃縮(水分除去)の工程からなっている。

なお、このプラントでは、特定第二類物質であるアクリロニトリル水溶液及び第二種有機溶剤であるスチレンを取り扱うが、屋外施設のため、特化則及び有機則の適用は受けない設備であった。

当日、一次下請から二次下請にプラント内各種配管の内部洗浄作業を行うよう書面で指示があり、作業者3名は現場で作業開始前のKYを実施したのち、各所に分散して配管洗浄作業を行った。

洗浄作業は、高圧ポンプの専用ホースから高圧水を排出し、水圧を利用して配管内部に付着している固形物を除去するものであった。足場からの転落、高圧水による切創・飛散、スケール(内壁付着物)飛来等の各危険が洗い出されていた。

作業は順調に進み、被災者は、指示された3本の配管の洗浄が終了したので、挿入していた高圧洗浄用のホースを配管から引き抜いたところ、異臭とともに内壁付着物が流出し、吐き気を感じるなど気分が悪くなったので病院へ搬送してもらった。

そして、検査入院の結果、薬物中毒と診断されたが、翌日には退院し他の作業者とともに帰宅した。

その翌日は会社事務所で勤務したが、翌朝になって再び気分が悪くなり、脱力感、食欲低下、心拍数低下等を感じたので大学病院に入院したところ、アクリロニトリルによる中毒と診断され3日間入院した。

【原因】

1 アクリロニトリルの蒸気を吸入したこと

洗浄していた配管の内壁に付着していたものから、アクリロニトリル(特定第二類物質)及びスチレンが検出され、濃度はそれぞれ17%及び2.3%であったので、アクリロニトリルの管理濃度2ppm、スチレンの日本産業衛生学会の許容濃度20ppmを上回っていた。

とくに、アクリロニトリルの濃度が高く、中毒症状の主な原因は配管内部の壁面に付着、滞留していて、洗浄に伴い外気に放出されたアクリロニトリルであると推定される。

2 配管の作業開始前の予洗が不充分であったこと

プラントの所有者は、この洗浄作業を発注する前に配管内を水洗していたが、予洗が十分ではなかったため、配管内にアクリロニトリル等の有害物質が内壁付着物として残留していた。

3 配管の内壁に付着していた有害物質についての認識がなかったこと

職長は、工事日報・安全指示書の中に洗浄を行う配管について、「アクリロニトリル水移送配管」と書かれていたことからアクリロニトリルが通っていた配管との認識はあったが、作業開始前に、発注者が配管に水を流したとの情報を得ていたので、配管内にアクリロニトリルが残留しているとは考えていなかった。

そのため、作業開始前のKYでは、化学物質による中毒等の危険有害性の洗い出しができず、対策も講じられなかった。

4 作業服装が不適切であったこと

当日の被災者の作業服装等は、布製の作業着の上に合羽を着用し、顔全体を覆うマスク及びゴム手袋を着用していたが、このマスクは防毒マスクではなかった。

【対策】

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。

1 配管内に残留する有害物質についての情報を共有すること

関係者は、配管内壁に付着しているおそれのある化学物質による中毒等の防止のために、プラントで取り扱われていた物質について情報を共有する。

また、元方事業者は発注者に、1次下請業者は元方事業者に、2次下請事業者は1次下請事業者に対して、それぞれ作業に係る危険有害性の情報の提供を求める。

とくに、発注者は、通常稼働時に使用されていた物質、内壁などに付着残留する可能性及び物質の危険有害性などの情報を元方事業者など関係者に提供する。(安衛法第31条の2)

2 作業開始前に配管内の洗浄を十分に行うこと

配管内に残留する物質を除去するため作業開始前に配管内の洗浄を行う場合は、洗浄効果を考慮して複数回行うなどのほか、洗浄後の残留の有無を確認する。

3 作業指揮者を指名してその指揮の下に作業を行わせること

特定化学物質を製造し、取り扱い若しくは貯蔵する設備又は特定化学物質を発生させる物を入れたタンク等で、特定化学物質が滞留おそれのあるものの改造、修理、清掃等については、健康障害予防についての知識を有する者のうちから作業指揮者を選任し、作業の指揮を行わせる。(参考:特化則第22条)

4 呼吸用保護具の使用等を指示すること

有害物が残留するおそれのある配管内の洗浄を行う場合には、危険有害性の情報に基づき、作業開始前のKY等で有害物質の吸入等による中毒の危険性についても洗い出しを行うとともに、関係者に対して危険有害情報の提供、有害物質の吸入による中毒の防止のため適切な保護具(防毒マスク等)の使用等を指示する。(参考:特化則第43~45条)

【業種】

その他の建設業

【被害者数】

休業者:1人

 

出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害事例 (mhlw.go.jp)

 

万が一、労災事故が起こった場合の労災申請に関して、ご不明点がありましたらお気軽にお尋ねください。

また、他にも労務相談等お困りごとがございましたら、当団体運営の札幌・東京の社会保険労務士法人 Aimパートナーズ (aimgroup-sr.com)へ是非ご相談ください。

 

本日も無事故で一日を終えられますように。

 

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