建設業の労災事例

汚水を利用したメタンガス発生装置の試運転中、ライターの火がメタンガスに引火し火傷

   

【労災発生状況】

この災害は、ビール工場の汚水を利用して、ボイラー用燃料に利用するメタンガスを発生させる装置の試運転中に発生したものである。

このビール工場では、それまで汚水に酸素を送り込む好気処理により汚水処理を行っていたが、メタンガスを発生させて回収するために、酸素を必要としない嫌気処理を行う設備に変更する工事を行い、災害発生当日は、工事業者からビール工場に設備を引渡すための試運転を行っていた。

試運転に立ち会ったのは、汚水処理設備の設計会社(W社)、工事を担当した元請業者(X社)および一次下請業者(Y社)から各1名の担当者、発注者であるビール会社(Z社)の工場担当者6名の計9名で、当日朝からメタンガス発生装置を組み込んだ汚水処理設備の最終点検を実施し、午後4時半から関係者が集合して試運転結果の確認を行った。その結果、付属する脱臭装置について硫化水素濃度が大気への放出箇所で基準値を超えることが報告され、PH調整槽での硫化水素の発生状態を確認することになった。そこでZ社の担当者2名とY社の1名がPH調整槽に向かい、PH調整槽の上に設けられた点検口から硫化水素の濃度を測定したところ300ppmであった。

Z社の担当者2名とY社の1名は、脱臭装置から大気へ放出される硫化水素を減らすためにPH調整槽内をわずかな負圧にすればよいのではないかと考えて、PH調整槽から脱臭装置につながるダクトの空気調整弁を調整した。このとき、PH調整槽が負圧になっていることを確認しようと点検口に手をかざしたが良く分からなかったので、一人がライターを取り出して点火し、これを点検口に近づけたところ、突然、点検口から炎が吹き出し、その場にいた3名が火傷を負った。

試運転を行っていた設備では、メタンガスは主にリアクタータンクで発生させる設計になっていたが、PH調整槽でも硫化水素とともにメタンガスが発生していた。このため、作業者の一人が負圧の確認のために点検口にライターの炎を近づけた際、炎が点検口から槽内に吸い込まれて槽内に充満していたメタンガスと硫化水素に引火したものであった。この汚水処理設備では、硫化水素とメタンガスが同じ箇所で発生することをW社の担当者は知っていたが、Y社およびZ社の担当者は認識していなかった。

汚水処理設備の試運転に当たり、W社とX社が協議し、操作手順や確認項目を盛り込んだ試運転計画書を作成していたが、異常発生時の対応や措置については計画書に盛り込まれていなかった。また、発生するメタンガスや硫化水素の危険有害性、設備の取扱い方法等についてX社は、試運転後の引渡しの際にZ社に通知するつもりであったため、試運転段階では連絡していなかった。

【原因】

この災害の直接の原因は、可燃性ガスの滞留するPH調整槽の点検口にライターの火を近づけたことであるが、このような危険な行為を行うに至った要因としては、次のようなことが考えられる。

1 試運転計画書が不十分であったこと

災害は汚水処理設備の試運転中に発生したが、使用されていた試運転計画書には操作手順や確認項目は盛り込まれていたものの、PH調整槽で発生または滞留する可能性のある可燃性ガスの種類と濃度の測定、PH調整槽での空気の流れの確認方法等、装置の危険性や異常発生時の対応等については計画書に盛り込まれていなかった。そのため、空気の流れを調べようとした一人の作業者がその場の判断でライターを点火し、メタンガスに引火した。

2 安全衛生教育等が不十分であったこと

汚水処理設備の試運転に携わる関係作業者全員に対し、可燃性ガスであるメタンガスや硫化水素の性状とその危険有害性、設備の安全な取扱い方法等について、試運転を始める前に教育していなかった。また、関係作業者に対し、火気厳禁の措置を徹底していなかったため、着火源となるライターが現場に持ち込まれた。

また、PH調整槽での硫化水素濃度測定後、Y社およびZ社の担当者が、W社およびX者の担当者の指示を仰がずに空気量の調整等の作業を行ったことも原因の一つである。

 

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。

1 設備の危険性を予測し、その危険性への対応方法等を盛り込んだ試運転計画書を作成すること

メタンガス発生装置を組み込んだ汚水処理設備の危険性とその抑制方法、予想される異常とその発生時の措置等の情報は、設備が発注者に引き渡される際に、設備の操作手順とともに提供されるべきものであるが、試運転の段階においても、これらの情報を明らかにした試運転計画書を作成し、これにもとづき試運転を行う必要がある。

2 関係労働者に対し安全衛生教育等を徹底すること

試運転に携わる関係作業者に対し、メタンガスや硫化水素の危険有害性、設備の安全な取扱い方法等について、事前に教育を行うとともに、可燃性ガスが発生する箇所への立ち入りの際は、火気厳禁の措置を徹底する。

また、試運転作業では、作成した計画書どおりでない事態が生じることがあり、そのような場合の指揮者として、設備の構造や危険性に詳しい者をあらかじめ選任しておき、その者に安全衛生面に配慮した指示を行わせることも重要である。

【業種】

機械器具設置工事業

【被害者数】

休業者数:2人

不休者数:1人

出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害統計 (mhlw.go.jp)

No.101099より一部抜粋

 

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