建設業の労災事例

工場建屋の内装工事中、ローリングタワー上で投げてもらった煙草を受取ろうとして転落

   

【発生状況】

この災害は、工場建屋の内装工事中に発生したものである。

この工場は、機械工場で地上1階・鉄筋造で工事進捗率はほぼ95%となっており、被災者の所属する会社は3次の下請として建屋内のボード張りを行っていた。

災害発生当日、被災者ら5名は、午前8時から元請の現場副所長が行った現場全体の朝礼に参加し、その後会社の5名で当日の打合せおよびKY活動を行った。現場の責任者である職長からは、当日作業に使用するローリングタワーのうち1台について初めて使用するので、手すりの状況を確認するよう指示があった。

午前8時30分頃から2台のローリングタワーを使用し、地上からの高さが11.40mの位置に電動ドリルでボードを張る作業を開始し、昼食をはさんで午後も同様の作業が続けられた。

午後5時30分頃、被災者は同僚と2名で行っていたローリングタワー(258cm×545cm、作業床の地上からの高さ975cm)から届く範囲のボード張りが終了したので、地上にいた他の同僚にフォークリフトで別の場所に移動してもらうため、ローリングタワーの中央部に積んであったボードに腰掛けていたが、途中で隣のローリングタワーにいた他の同僚に、そのタワーに掛けていた自分の上着から煙草を取って投げてくれるよう依頼した。

依頼された同僚は、煙草を上着から取り出して、被災者に投げた。被災者は手すりに近づいて受け取ろうとしたときにバランスを崩し、ローリングタワーから約10m下のコンクリート床に墜落した。

その後、被災者は救急車で病院に移送されたが、3時間後に頚頭部損傷のため死亡した。なお、被災者は、墜落時に保護帽を着用していなかった。

【原因】

この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。

1 ローリングタワーの手すりが緊縛されていなかったこと

被災者が煙草を受け取ろうとしたローリングタワーの作業床は、地上から9.75mの位置にあり、その作業床から98cmの位置にはパイプ(外径6.5cm)で四囲に手すりが設けられていたが、被災者が墜落した箇所ではパイプが他のパイプの上に載せてあるだけの状態であったため、被災者が煙草を受け取るため体重を掛けたときにパイプが外れ、パイプと共に地上に墜落したものと推定される。

なお、外れたパイプの固定方法は、パイプの端部に穴を開け、そこに番線を通して輪にし、それをタワーの建地の単管に掛ける形式のものであった。

2 手すりの固定方法を確認していなかったこと

作業開始前に、職長は手すりの点検を指示してはいたが、実際には確実な点検が行われていなかった。

なお、被災者らがこのローリングタワーを使用する前に、別の内装会社の作業員が下地工事に使用する材料をタワーの作業床に荷揚げするため、一時手すりを外していた。

3 喫煙等についての指示が不明確であったこと

被災者は、ローリングタワーの上で喫煙するため、同僚に煙草を投げてもらったときに墜落したものであるが、工事中に喫煙する場所の特定、タワー上での喫煙禁止等の指示が明確に行われていなかった。

【対策】

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。

1 作業開始前に手すりの固定状態を確認すること

高所の作業に使用するローリングタワーは、高所作業車に比較して安定度が低く、作業中の動揺などにより墜落の危険が高いため、墜落防止措置としての手すりの確実な固定は不可欠の要件である。作業開始前および荷揚げ作業の終了後等には緊縛等の状態を必ず確認する。(安衛則第519条関連)

なお、番線で輪を作って簡単に着脱できるような構造の固定方法は、手すりの確実な固定方法ではないので、専用の固定用金具を使用する等の方法を採用する。

2 ローリングタワーに乗ったまま移動しないこと

建築途上あるいは床の状態が均一でないところで使用するローリングタワーは、安定度が低いので、作業箇所を移動するような場合には、作業者を乗せたまま移動することなく、作業者が安全な昇降用梯子等を利用して地上に降りたうえで移動する。

また、ローリングタワー上での作業の場合はもちろんのこと、短時間の休憩の場合にも必ず保護帽を着用する。

3 喫煙場所の特定等の指示を明確に行うこと

工事現場での喫煙は、火災危険の防止等の観点から重要事項であり、喫煙場所の特定、煙草等の持ち込み禁止等について全作業者に徹底する。特に、ローリングタワー上での喫煙は厳禁する。

4 作業中の安全管理を確実に行うこと

墜落防止措置として設置した手すりの固定状態の確認と是正については、関係作業者に徹底するとともに、管理者が定期あるいは随時に巡視等を行って確認する。

また、職長等は、指示事項の遵守の状況、保護帽の着用状況等を随時確認する。

 

【業種】

鉄骨・鉄筋コンクリート造家屋建設工事業

【被害者数】

死亡者数:1人

出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害統計 (mhlw.go.jp)

No.100802より一部抜粋

 

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