浚渫船のタンク点検中に酸素欠乏症となる
【発生状況】
この災害は、浚渫(しゅんせつ)船の傾きの原因調査中に発生したものである。
主に港湾の浚渫工事を行っているX社では、約6か月の予定で湾内航路を浚渫し、その土砂を搬出する作業を夜間作業で実施していた。
災害発生当日、被災者らは、通常どおり前日の午後10時より開始した作業が午前4時30分頃に終了したので、工事部長Aが曳船の船長として浚渫船を繋留地に接岸したが、浚渫作業中に浚渫船が2度ほど右に傾いていたので、傾きの原因を見つけるために手分けして浚渫船各部の点検に取りかかった。
工事部長Aは、配下の作業者Bを引き連れ、まず機関室右舵の後方のマンホールを開けて見たが、傾きの原因がこのタンクではないことが判明した。
別のタンクを調べることにしたが、そのタンクには水が入っていたので、まず、水中ポンプで水を排出することにした。しかし、水は深く傾斜がついているタンクの奥まで入っており、しかも傾斜部には鉄骨材の仕切りがあったため、ホースの先をうまく水面に付けることが困難であったので、タンクの中に入って水を汲み出すことになった。
Bがマンホールから中に入ったが、その直後に叫び声をあげて倒れたので、Aも作業者を助けようと中に入り作業者と同様タンク内で倒れた。
2人は救急隊員にタンク内から救助されたが、2人とも酸素欠乏症のため死亡した。
【原因】
この災害は、浚渫船の傾きの原因調査のため、タンク内に入ったとき発生したものであるが、その災害原因としては、次のようなことが考えられる。
1 海水が長期間滞留していたため酸素欠乏危険場所になっていたこと
災害が発生したタンク内には、海水が長期間にわたり溜まっていたため、内壁の酸化が進み、内部の酸素濃度が低下していた。
なお、同様の状態にあった別のタンクの酸素濃度を測定したところ僅か1.1%のものがあった。
2 酸素欠乏危険についての認識がなかったこと
工事部長には、酸素欠乏危険について認識がなく、救助にとっさに飛び込んで自分も被災した。
また、会社は、酸素欠乏危険に対する教育も実施していなかった。
3 作業計画を作成せずに点検作業を行ったこと
災害が発生したときの作業は、浚渫船の傾きの原因究明という船の基本的な機能に関するものであることから、必要な予備調査を行って点検・補修に関する作業計画を樹てて実施すべきであるのに、それを行わず安易にタンク内に入らせた。
【対策】
この災害は、浚渫船の傾きの原因調査のため、タンク内に入ったとき発生したものであるが、同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 計画を作成して点検作業等を実施すること
海水が長期間滞留しているタンク、相当期間密閉されていたタンク等は、酸素欠乏危険場所であるので、その内部に立ち入る作業についてはあらかじめ酸素濃度の測定、換気設備の要否、必要な保護具の準備等を含めた作業計画を作成のうえ作業を実施する。
(酸欠則第3条~7条関連)
2 特別教育を実施すること
汚水、腐泥、発酵する物、海水などがはいっていたり、入れたことのあるタンクなどの内部のように酸素欠乏のおそれのある危険な場所で作業を行う者に対しては、あらかじめ酸素欠乏等に関する特別教育を実施する。(令別表6、酸欠則第12条関連)
3 作業主任者を選任して作業を行うこと
酸素欠乏危険作業については、技能講習を修了した者の中から作業主任者を選任し、その者の直接指揮の下で作業を行わせる。(酸欠則第11条関連)
【業種】
港湾海岸工事業
【被害者数】
死亡者数:2人
出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害統計 (mhlw.go.jp)
No.100728より一部抜粋
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コンクリート打設後2ヶ月経過した地下ピットに型枠解体のため入り酸素欠乏症となる
【発生状況】
この災害は、大学の研究棟の建設工事中に発生したものである。
この工事全体は約2年間の工期で行われるものであったが、約1年が経過した時点でコンクリートが打設されてから約2か月間密閉されていた地下ピット(ケーブルや上下水道の配管等を収容するためのピット)内の型枠の解体作業を行うことになった。
災害発生当日の作業の内容は、幾つかに分割されているピット間に設置されている型枠材に穴を開け人通孔を確保するもので、被災者は同僚と2人で朝から地下ピットに入ってこの作業を開始した。
午後3時頃、被災者は、ピット2とピット3の間にある型枠材を手鋸を使用して切断し、ピット3に入ったところで気を失って倒れた。
その後、被災者は元方事業者の職員等によって換気したのち救出され病院に移送されたが、3日後に酸素欠乏症のため死亡した。
なお、被災者および同僚は形式上は2次下請の労働者であるが、実際には派遣労働者で作業の指揮・監督は元方事業者または1次下請事業者が行っていた。
【原因】
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 ピット内が酸素欠乏危険場所になっていたこと
災害が発生した後に同様の条件で他のピットで酸素濃度を測定したところ、3.5~3.6%であったことから、ピット3の中は著しい酸素欠乏危険場所になっていたと推定される。
なお、その原因としては、ピット内において好気性の微生物が増殖したことによるものと推定される。
2 作業主任者の未選任、酸素濃度測定の未実施など安全衛生管理を実施していなかったこと
この災害の直接的な原因はピット内が酸素欠乏状態となっていたことであるが、間接的な原因としては次のことがあげられる
(1) 元方事業者は換気の必要性については認識していたが、それ以外の酸欠災害防止対策については特に指示を行っていなかった。
(2) 1次下請(被災者の派遣先)の現場責任者も酸素欠乏危険については認識していたが、元方事業者に対して換気以外の酸欠災害防止対策について要請せず、また、換気の実施についても明確な指示を行っていなかった。
(3) 酸素欠乏危険作業主任者を選任して、酸素濃度等の測定、作業の監視等を行わせていなかった。
(4) 関係労働者に対して酸素欠乏危険およびその防止対策についてあらかじめ教育を実施していなかった。
なお、被災者らは、派遣労働者であったが、危険有害な業務に安易に従事させていたことも原因の一つとしてあげられる。
【対策】
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 作業主任者を選任し、その職務を励行させること
酸素欠乏危険作業主任者を選任し、次のような職務を励行させる。(酸欠則第11条関連)
(1) 作業の方法を決定し労働者を指揮すること
(2) 作業開始前等に酸素濃度を測定すること
(3) 測定器具・換気装置・空気呼吸器等の点検を行うこと
(4) 空気呼吸器等の使用状況を監視すること
2 特別教育を実施すること
関係作業者に対して酸素欠乏危険に係る特別教育をあらかじめ実施する。(酸欠則第12条関連)
なお、酸素欠乏危険場所には、関係者以外の立ち入りを禁止し、その旨を表示する。(酸欠則第9条、安衛則第640条関連)
3 換気を十分に行うこと
地下ピット内で作業を行うときには、あらかじめ換気を十分に行う。(酸欠則第5条関連)
4 安全衛生管理体制を整備すること
酸素欠乏危険場所等を有する工事現場においては、元方事業者による関係請負人の連絡調整、作業場所の巡視等を行う体制を整備する。(安衛法第30条関連)
【業種】
鉄骨・鉄筋コンクリート造家屋建築工事業
【被害者数】
死亡者数:1人
出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害統計 (mhlw.go.jp)
No.100732より一部抜粋
万が一、労災事故が起こった場合の労災申請に関して、ご不明点がありましたらお気軽にお尋ねください。
その他労務相談等お困りごとがございましたら、当団体運営の札幌・東京の社会保険労務士法人 Aimパートナーズ (aimgroup-sr.com)へ是非ご相談ください。
本日も無事故で一日を終えられますように。