建設業の労災事例

化学プラントの配管内部の洗浄作業中、アクリロニトリル中毒

   

【労災概要】

この災害は、化学プラントの定期検査時に配管内部の洗浄中に発生したものである。

このプラントは、ブタジエンにアクリロニトリルを重合させて製品を合成する設備で、原料重合→未反応ブタジエン回収→濃縮(水分除去)の工程からなっている。

なお、このプラントでは、特定第二類物質であるアクリロニトリル水溶液及び第二種有機溶剤であるスチレンを取り扱うが、屋外施設のため、特化則及び有機則の適用は受けない設備であった。

当日、一次下請から二次下請にプラント内各種配管の内部洗浄作業を行うよう書面で指示があり、作業者3名は現場で作業開始前のKYを実施したのち、各所に分散して配管洗浄作業を行った。

洗浄作業は、高圧ポンプの専用ホースから高圧水を排出し、水圧を利用して配管内部に付着している固形物を除去するものであった。足場からの転落、高圧水による切創・飛散、スケール(内壁付着物)飛来等の各危険が洗い出されていた。

作業は順調に進み、被災者は、指示された3本の配管の洗浄が終了したので、挿入していた高圧洗浄用のホースを配管から引き抜いたところ、異臭とともに内壁付着物が流出し、吐き気を感じるなど気分が悪くなったので病院へ搬送してもらった。

そして、検査入院の結果、薬物中毒と診断されたが、翌日には退院し他の作業者とともに帰宅した。

その翌日は会社事務所で勤務したが、翌朝になって再び気分が悪くなり、脱力感、食欲低下、心拍数低下等を感じたので大学病院に入院したところ、アクリロニトリルによる中毒と診断され3日間入院した。

【原因】

1 アクリロニトリルの蒸気を吸入したこと

洗浄していた配管の内壁に付着していたものから、アクリロニトリル(特定第二類物質)及びスチレンが検出され、濃度はそれぞれ17%及び2.3%であったので、アクリロニトリルの管理濃度2ppm、スチレンの日本産業衛生学会の許容濃度20ppmを上回っていた。

とくに、アクリロニトリルの濃度が高く、中毒症状の主な原因は配管内部の壁面に付着、滞留していて、洗浄に伴い外気に放出されたアクリロニトリルであると推定される。

2 配管の作業開始前の予洗が不充分であったこと

プラントの所有者は、この洗浄作業を発注する前に配管内を水洗していたが、予洗が十分ではなかったため、配管内にアクリロニトリル等の有害物質が内壁付着物として残留していた。

3 配管の内壁に付着していた有害物質についての認識がなかったこと

職長は、工事日報・安全指示書の中に洗浄を行う配管について、「アクリロニトリル水移送配管」と書かれていたことからアクリロニトリルが通っていた配管との認識はあったが、作業開始前に、発注者が配管に水を流したとの情報を得ていたので、配管内にアクリロニトリルが残留しているとは考えていなかった。

そのため、作業開始前のKYでは、化学物質による中毒等の危険有害性の洗い出しができず、対策も講じられなかった。

4 作業服装が不適切であったこと

当日の被災者の作業服装等は、布製の作業着の上に合羽を着用し、顔全体を覆うマスク及びゴム手袋を着用していたが、このマスクは防毒マスクではなかった。

【対策】

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。

1 配管内に残留する有害物質についての情報を共有すること

関係者は、配管内壁に付着しているおそれのある化学物質による中毒等の防止のために、プラントで取り扱われていた物質について情報を共有する。

また、元方事業者は発注者に、1次下請業者は元方事業者に、2次下請事業者は1次下請事業者に対して、それぞれ作業に係る危険有害性の情報の提供を求める。

とくに、発注者は、通常稼働時に使用されていた物質、内壁などに付着残留する可能性及び物質の危険有害性などの情報を元方事業者など関係者に提供する。(安衛法第31条の2)

2 作業開始前に配管内の洗浄を十分に行うこと

配管内に残留する物質を除去するため作業開始前に配管内の洗浄を行う場合は、洗浄効果を考慮して複数回行うなどのほか、洗浄後の残留の有無を確認する。

3 作業指揮者を指名してその指揮の下に作業を行わせること

特定化学物質を製造し、取り扱い若しくは貯蔵する設備又は特定化学物質を発生させる物を入れたタンク等で、特定化学物質が滞留おそれのあるものの改造、修理、清掃等については、健康障害予防についての知識を有する者のうちから作業指揮者を選任し、作業の指揮を行わせる。(参考:特化則第22条)

4 呼吸用保護具の使用等を指示すること

有害物が残留するおそれのある配管内の洗浄を行う場合には、危険有害性の情報に基づき、作業開始前のKY等で有害物質の吸入等による中毒の危険性についても洗い出しを行うとともに、関係者に対して危険有害情報の提供、有害物質の吸入による中毒の防止のため適切な保護具(防毒マスク等)の使用等を指示する。(参考:特化則第43~45条)

【業種】

その他の建設業

【被害者数】

休業者:1人

 

出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害事例 (mhlw.go.jp)

 

万が一、労災事故が起こった場合の労災申請に関して、ご不明点がありましたらお気軽にお尋ねください。

また、他にも労務相談等お困りごとがございましたら、当団体運営の札幌・東京の社会保険労務士法人 Aimパートナーズ (aimgroup-sr.com)へ是非ご相談ください。

 

本日も無事故で一日を終えられますように。

 

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