建造中の排水処理槽スラブ上で作業中、開口部から転落
【発生状況】
この災害は、農業排水処理場の建設工事中に発生したものである。
この工事は、地下に埋設する農業集落排水処理槽(約10m×10m、深さ4.9m)とその上に2階建ての地上施設を建設するものであった。災害は地上施設の建設準備段階で発生した。
被災者の所属するY社は、1次下請として排水処理槽のコンクリート打設の作業を請け負っていた。
災害発生当日、Y社は、地上部の建築の際に不要なスラブ上の単管等の撤去と片付け作業を行うことになっていた。職長役の被災者と作業員4名は、午前8時10分頃に現場に到着して、元請の現場代理人から10分ほどの朝礼指示を受けた後、直ちに排水処理槽スラブ上にある単管等の片付け作業を開始し、午前10時の午前の休憩を挟んで作業を続けていた。
午前10時40分頃、被災者は2人の作業員とスラブ上で、養生用の青のビニールシート(10m×10m)をたたむ作業を行っているときに、ビニールシートで隠れていた開口部(100cm×60cm)から4.9m下の排水処理槽内のコンクリート床まで転落した。
転落直後、被災者は意識があったが、救急車で病院に移送されて間もなく脳挫傷等により死亡した。
なお、当時、スラブ上には、排水処理槽内部に施した防水材の乾燥と点検のために大小(大きいもので500cm×60cm)20個の開口部が設けられていた。そのうち14個については覆いが設けられていたが、残りの6個は開放されたままであった。
また、当日の作業に従事したのは、被災者の他は日本姓を名乗る東南アジア系の外国人であったが、不法就労のためか災害発生後には行方が不明になった。
【原因】
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 開口部に覆いが設けられていなかったこと
災害の直接的な原因は、排水処理槽スラブ上を覆っていたビニールシートを片付ける作業の前に、開口部に覆い等を設けなかったことである。
なお、開口部は、排水処理槽内に塗布した防水材の乾燥等のために設けられていたものであるが、その乾燥状況も確認しないまま作業に着手したことも間接的な原因といえる。
2 朝礼の指示を守らなかったこと
この現場はJV(共同企業体)で施工されていた。現場に常駐しているのは 現場代理人 1名だけで、当日の朝礼でこの現場代理人が開口部を覆ってから片付け作業を行うように指示していたにもかかわらず、被災者らはその指示に従わずに片付け作業を行った。
3 作業手順が定められていなかったこと
当日の作業について、排水処理槽内部の乾燥状況の確認、開口部の覆い等の設置などの一連の作業手順が定められていなかった。
4 元請も安全管理を行っていなかったこと
現場代理人は、朝礼のときに開口部の覆いについて指示はしていたが、片付け作業を指示通りに行っていないことを承知していたのに、改めて作業の中止、覆いの取り付け等の具体的な是正指示を行わなかった。
【対策】
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 墜落危険箇所の防護を確実に行うこと
高さが2m以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれがある箇所には、囲い、手すり、覆い等を設ける。(安衛則第519条、第653条関連)
なお、囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取り外すときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等の措置を行う。
2 作業計画を作成し徹底すること
片付け作業など作業の内容が比較的単純な場合には、作業の計画・手順を定めずに口頭指示だけで作業を行わせることが少なくない。作業床の端、開口部等、墜落の危険がある場所で作業を行わせる場合には、墜落防止措置の具体的な実施方法等について作業計画・作業手順を定め、関係労働者に徹底する。
3 元方事業者として安全管理を実施すること
元方事業者は、関係請負事業者の労働者に対して作業内容の指示を行うだけではなく、請負事業者として実施すべき安全対策について指導等を行うとともに、随時に作業場所を巡視し必要な指示、指導を行う。
また、複数の下請が同一の場所で作業を行う場合には、作業間の連絡調整等を行う。(安衛法第30条、安衛則第636条関連)
4 安全教育を実施すること
事業者は、作業現場で指揮監督する者に対して、あらかじめ安全衛生に関する教育(職長教育)を実施するとともに、関係作業者に対しても必要な安全衛生教育を実施する。(安衛法第59,60条関連)
【業種】
その他の工事業
【被害者数】
死亡者数:1人
出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害統計 (mhlw.go.jp)
No.100800より一部抜粋
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