鋼製の貯水タンク内で下地塗料の塗布作業中、有機溶剤中毒
【発生状況】
この災害は、鋼製の貯水タンク内の防水工事において、下地塗料を塗布する作業中に発生したものである。
貯水タンクは、幅が2.5 m、奥行きが3.8 m,深さが2.4 mのものであり、天井部に縦および横が50cmの開口部が設けられていた。
災害が発生した日、元請の現場代理人と下請の作業者2名により打合せを行った。作業は、外部に2人が待機し、1人がタンク内で塗布作業を交代で行うこととし、作業中は、タンクの側面にあるバルブを開放し、タンク天井部の開口部からブロワーで送気し、有機ガス用吸収缶を装着した保護マスクを着用することとした。
まず、下請の作業者Aがタンク内に入り塗布作業を行い、塗料の補給のためタンクの外に出て、換気用のブロワーのスイッチを切った。そして、ブロワーによる送気が停止されたまま作業者Aがタンク内に入り、後を追うようにして作業者Bもタンク内に入った。その後、タンクから離れていた元請の現場代理人がタンク上に上がったところ2人の姿が見えないので、タンク内をのぞいたところタンクの底部に倒れている2人を見いだした。直ちに2人を救出したが、有機溶剤中毒により作業者Bは死亡し、作業者Aは入院治療により治癒した。
【原因】
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 使用していた塗料に、有機溶剤であるトルエンが45%、酢酸エチルが15%、キシレンが8%含まれていたこと。
2 タンク内を換気するためのブロワーの運転を停止していたため、塗料に含まれていた有機溶剤から発生した蒸気が、密閉されたタンク内に滞留していたこと。
3 タンク外に、タンク内を監視する者がいない状態でタンク内での作業を行っていたため、救出が遅れ、症状が重篤化したこと。
4 死亡した作業者Bが使用していた保護マスクが粉じん用防じんマスクであったこと。また作業者Aが使用していた防毒マスクの吸収缶が使用限度を超えて破過していたものと考えられること。
5 防毒マスクの適切な選択および使用方法についての知識が乏しかったため、防じんマスクの使用が見過ごされてしまったこと。
6 元請の下請に対する有害物を取り扱う作業における防護対策についての技術的な指導が不足していたこと。
7 有機溶剤を含む塗装作業の有害性に関する認識が、作業者に欠如していたこと。
【対策】
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 タンク内での有機溶剤を含有する塗料を塗布する作業にあたっては、タンク内の気中濃度が健康障害を及ぼす濃度以下になるように換気する能力を有する換気設備を使用すること。
2 防毒マスクについては、その取扱説明書および破過曲線図などに基づいて、作業場所における有害物質の気中濃度、温度、湿度に対して余裕のある使用限度時間をあらかじめ設定し、その設定時間を限度に使用すること。
3 タンク内で有機溶剤を含有する塗料の塗布作業を行う際には、常にタンク外に監視人を配置し、タンク内作業を監視させ、異常事態の発生に備える必要があること。
4 作業を開始する前に、あらかじめ、保護具の使用、換気の方法、作業の方法および手順などについての作業手順書を作成すること。
5 元請は、下請に対して有機溶剤中毒防止のための労働衛生教育、換気の方法、保護具の適切な選択と使用方法などについて技術的な指導援助を行うこと。
【業種】
電気通信工事業
【被害者数】
死亡者数:1人
出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害統計 (mhlw.go.jp)
No.100756より一部抜粋
万が一、労災事故が起こった場合の労災申請に関して、ご不明点がありましたらお気軽にお尋ねください。
その他労務相談等お困りごとがございましたら、当団体運営の札幌・東京の社会保険労務士法人 Aimパートナーズ (aimgroup-sr.com)へ是非ご相談ください。
本日も無事故で一日を終えられますように。
地下鉄の蓄電池室の改修工事中で一酸化炭素中毒
発生状況
この災害は、地下鉄構内にある蓄電池室の改修工事中に発生したものである。
災害発生当日、2次下請に属する被災者ら3名は、午前9時から別の駅の工事に従事し、午前11時頃に作業が終了したので車で災害が発生した駅に移動した。
午後1時10分から元方事業者の現場代理人と1次下請の労働者2名の6名で作業の打合せが行われた。その後、1次下請の労働者2名は材料調達のため工事現場を離れ、作業は現場代理人の指揮のもと被災者ら3名で午後1時20分頃から開始した。
作業は、まず無停電電源装置からの配線を収納するピットを築造するためにコンクリート床への墨付けが行われ、続いてブルーシートで既設の機械設備の防護、集じん機の据付、電源の準備等が行われた。
午後2時10分頃から内燃機関で駆動するコンクリートカッターでの切断作業を開始した。被災者Aはカッターの運転を、被災者Bはコンクリート床面に流れ出た切削剤(水)の拭き取りを行って、午後2時40分頃にはほぼ終了したが、その少し前から被災者Bは気分が悪くなったので、被災者Aにそのことを告げたが、もう少しということで作業は続行された。
切断作業が終了した頃に、1次下請の労働者が現場に戻り、蓄電池室内の様子を見て直ぐに室外に出るように指示したが、最後に室外に出た被災者Aも気分が悪いといってドアのところに座り込んだ。
その後、10分ほど向かいにある機械室で水で頭を冷やしながら2人を休ませたうえ、病院で診察を受けたところ、一酸化炭素中毒と診断され2日の休業となった。
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 狭い室内で内燃機関駆動のコンクリートカッターを使用したこと
災害が発生した蓄電池室は、300cm×410cmの広さであったが、既設の機械設備にブルーシートを掛けていたので実質は160cm×410cm程度の広さで、隣の倉庫とはドアがあり、また、換気口(33cm×71cm)が2箇所あったがドアは閉じられた状態であった。
このような狭い室内で内燃機関駆動のコンクリートカッターを使用したのに強制換気を行わなかったことが、一酸化炭素中毒になった原因である。
2 作業姿勢が適切でなかったこと
被災者Bは、コンクリート切削時に通常の工事では流したままの水を漏電等を避けるため直ぐに拭き取っていたが、顔面の位置が内燃機関の排気の位置に近かった。 また、被災者Aもコンクリート床に顔を近づけながらコンクリートカッターの運転を続けていた。
3 適切な保護具を使用していなかったこと
被災者らは、作業中は綿マスクを使用していたが、これは一酸化炭素中毒を防止するためには適切な保護具ではなかった。また、防毒マスク等も準備されていなかった。
4 安全衛生教育が実施されていなかったこと
被災者らは、内燃機械を使用する作業における中毒およびその防止についての教育を受けてはいなかった。
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 作業方法について十分な打合せを行うこと
狭い室内で作業を行う場合には、作業計画を作成する段階で使用する機械の種類、必要な適切な保護具、強制換気のための装置、作業手順、必要であれば作業環境の測定等について検討し、安全で衛生的な作業が実施できる作業方法を決定する。
2 安全衛生教育を実施すること
狭い室内において、内燃機関で駆動する機械設備を使用する場合には、排気される一酸化炭素による危険有害性とその防止対策等についてあらかじめ労働者に安全衛生教育を実施する。
とくに、一酸化炭素(可燃性ガス、特定化学物質第3類)は、爆発範囲が12.5%~74%と広く、空気との混合があって点火源があれば爆発の危険があると同時に、血液中のヘモグロビンと結合して体内の酸素供給能力を妨げる作用があって1200ppmを超えると死に至る有害なものであることを十分に徹底する。
3 作業指揮などの安全衛生管理を実施すること
危険有害なガス蒸気の発生のおそれがある場所での作業については、あらかじめ労働者に必要な安全衛生教育を実施するとともに、一定の知識経験を有する者を作業の指揮者として指名し、換気の実施、適切な保護具(防毒マスク等)の使用等について指揮監督をさせる。
また、2次の下請事業者等は、労働者の安全衛生を確保することは自らの責務であることを十分に認識し、安全衛生に係る諸対策を実施するとともに、作業場所を巡視し必要な指示を行う。
【業種】
電気通信工事業
【被害者数】
休業者数:2人
出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害統計 (mhlw.go.jp)
No.100758より一部抜粋
万が一、労災事故が起こった場合の労災申請に関して、ご不明点がありましたらお気軽にお尋ねください。
その他労務相談等お困りごとがございましたら、当団体運営の札幌・東京の社会保険労務士法人 Aimパートナーズ (aimgroup-sr.com)へ是非ご相談ください。
本日も無事故で一日を終えられますように。
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