建設業の労災事例

繊維会社のボイラー取替工事中にスレート屋根を踏み抜き転落し死亡

   

【発生状況】

この災害は、繊維会社のボイラーの取替え工事で発生したものである。

被災者の所属する会社は、既設の炉筒煙管式ボイラー2基を撤去して小型多管式貫流ボイラーを設置する作業を3次下請けとして請け負った。

作業工程としては次のようなものであった。

[1] 既設ボイラー1基の煙突撤去

[2] ボイラー本体および煙管の解体撤去

[3] ボイラー基礎部の解体、清掃

[4] 新設ボイラーの基礎作り

[5] 小型ボイラー2基の設置

[6] 足場を組んで配管等の工事

[7] 足場の解体

[8] 電気工事

[9] 保温材等の取り付け

[10] 試運転

[11] もう1基の既設ボイラー解体

当日は作業の初日で工程のうち[1]から[3]までを行う予定であった。

当日は、繊維会社の担当課長、新設するボイラーメーカーの営業所長、1次下請の社長、下請け業者の作業者など計10名(被災者の会社からは、被災者のほか2名の作業者)が、午前8時30分頃からそれぞれの分担した作業を開始した。

午前9時30分頃、溶断した煙突を移動式クレーンでつり上げようとしたところ、煙突を固定していた屋根上の鉄板が溶接されていたためつり上げられなかった。

そこで、被災者と同僚で煙突の周囲の鉄板を溶断したが、まだ鉄板が引っかかっていたので屋根上に被災者が上り貫通部分をさらに細かく溶断することとした。

この作業は、ボイラー室屋根がスレートで葺かれていたので、屋根に歩み板を敷いて行った。

歩み板を敷く時にスレート屋根の一部を損傷したことを午前の休憩時間中に1次下請の社長に話したところ、本日中の修復を指示された。被災者と同僚は移動式クレーンによる煙突の撤去が終わった午後4時30分頃から屋根に上がって修復の方法を相談し、同僚が作業に必要な道具を取りに地上に戻った。被災者は歩み板を取るためにスレート屋根の上を歩いていたとき、スレート屋根を踏み抜き屋根上に残っていた鉄板(85cm×90cm×3cm、質量20kg)とともに5m下の床まで墜落した。

【原因】

この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。

1 スレート屋根の踏み抜き防止措置が不十分であったこと

この災害は、既設の煙突の撤去作業において、スレート屋根の歩み板(長さ2m、幅25cm、厚さ4cm)を運搬中にスレート屋根を壊してしまったので、その修復の準備中に発生したものである。このスレート屋根は約40年前に葺かれた厚さ6.3mmのものでかなり老朽化していた。

このスレート屋根の修復を行う場合には、当然踏み抜きに対する防止措置を講ずる必要があったのに、被災者らはそれを行わなかった。

2 作業計画を定めずに作業に着手したこと

スレート屋根の修復作業は、歩み板の運搬中に屋根を壊したため当日、急に実施されたものである。このことは当初作業内容に予定されていなかったので十分な強度を有する歩み板を敷き詰めること等についての作業計画を定めずに着手した。

また、被災者らは、この作業について指示を受けることなく、作業を開始した。

3 元方事業者が統括管理を行わなかったこと

この現場における元請の責任者はボイラーメーカーの営業所長であるが、工事全体の安全に関する知識、経験が無かった。実際の作業は1次下請などに任せたままで、作業開始前の打ち合わせ、相互の連絡調整等の統括管理を実施していなかった。

【対策】

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。

1 作業計画を明確に定め作業指示を行うこと

機械設備の据付工事等においては、しばしば次のような事態が発生する。

[1] 当初予定していた工期・時間が不足する

[2] 作業中に周辺設備との間に破損等の不具合が生ずる

[3] 当日予定した技能を有する作業員が確保できない

このような場合には、作業計画あるいは手順の変更を行う。また、破損箇所の修復作業が生じた場合には、その作業に必要な安全を確認した上で作業の着手を命ずる。

また、今回のような予定外の作業に対しては、作業指揮者を配置し、安全な作業の実施について指揮監督させる。

2 墜落危険場所の対策を十分に行うこと

スレート、木毛板等の材料で葺かれた屋根の上で作業を行う場合で、踏み抜きの危険がある場合には幅が30cm以上の歩み板を設け、防網を張る等の措置を講ずる。(安衛則第524条)

3 安全衛生教育を実施すること

高所で作業を行う者に対しては、あらかじめ墜落・転落危険とその防止対策について安全衛生教育を実施する。

とくに、安全な足場の組み立て方法、安全帯の使用方法、安全帯の取り付け設備の設置方法、防網の張り方、高所への昇降設備の設置方法、歩み板の設置方法について十分な教育訓練を行う。

4 統括安全衛生管理を実施すること

下請を使用して工事を行う元方事業者は、混在作業による災害防止等を図るため、協議組織の設置と運営、下請との連絡調整、作業箇所の巡視等の統括安全衛生管理を行う。(安衛法第30条)

また、その日の作業開始前に、安全のポイント等を指示する。

【業種】

機械器具設置工事業

【被害者数】

死亡者:1人

出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害統計 (mhlw.go.jp)

No.100930より一部抜粋

 

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