鋼管棚足場の上で作業中、溶接機から流れた電流が保持した部材をとおり作業者が感電
【労災概要】
この災害は、病院の新築工事において、3階の多目的ホールの天井下地材の取り付け作業中、足場上でアーク溶接の電流により感電したものである。
災害発生当日、A・B2名の作業者が鋼管棚足場および棚足場端部のブラケット足場の上で化粧見切り縁を天井下地材への取り付け作業をしていた。その作業の準備として見切り縁寸法を合わせる作業をしていたところ、隣接場所で天井下地の補強材取り付けのため、稼働中の溶接機の溶接棒から天井軽鉄骨部材に流れた電流により、作業者AおよびBの2名が感電してAが死亡したものである。
溶接機は、交流アーク溶接機で高抵抗始動型自動電撃防止装置を内蔵したものであり、溶接機2次側の帰線側ケーブルは2階の鉄骨柱に、溶接棒側は30mのケーブルにより溶接棒ホルダーに接続されていた。
電流は、作業者が使用していた鋼製棚足場の鋼製床から被災者AとBの人体を通じて、保持していた鋼製の見切り縁から帰線側の鉄骨躯体を経由して流れたものである。
鋼製棚足場は、コンクリートスラブ上に設置され溶接機の2次側からは通常では絶縁状態であるが、溶接棒が棚足場の鋼製床材等に接触している状態で、作業者が鉄骨躯体側の部材取り付けなどを行うと、棚足場と鉄骨躯体側との間に約70Vの電位差を生じて、被災者らには2秒間に70mAの電流が流れ、心室細動を発生したものである。
【原因】
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 アーク溶接機の帰線側ケーブルを被溶接材の溶接点の近くに接続せず、鋼製棚足場もアースを設置していなかったこと
溶接作業場所の近くにアースをとらず2階の鉄骨にとったため、絶縁されていた被災者が天井下切材に接触することにより電流が流れた。
2 災害が発生する前の作業中に電動工具の躯体に火花を発したり、電撃を感じた作業者がいたにもかかわらず、原因を確かめず作業を続行したこと
作業場所近傍での電撃の原因がはっきりしないにもかかわらず、作業責任者に報告や事後措置を行わず作業を続行していた。
3 発汗により人体の抵抗値が低下していたと見られること
発汗は人体の抵抗値を低下させて、より体内へ電流が流れやすくなる。
4 溶接機の溶接棒ホルダーに溶接棒を取り付けたまま、作業床に放置しておいたこと
溶接作業を中断するに際して溶接機の電源を開かないまま、溶接棒ホルダーを導電性の高い鋼製の作業床においたため、溶接機2次側回路に電流が流れた。
【対策】
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 電撃や火花が発生するなど漏洩電流や迷走電流のおそれが発見されたときには、その原因を確認して対策を講じること
一般に電撃が感じられたときに、その電流がどこから流れてきたのか原因の特定が困難な場合が多い。この様な場合については、電気担当者や主任技術者に判断を委ね原因 の特定とその除去が完了するまで作業を中止する。
2 溶接機の2次側帰線ケーブルは、被溶接材の溶接点の近くに接続すること
帰線側ケーブルの接続は、溶接作業を行う場所に近接させて行う。アースと溶接位置が離れていると電流が迷走することがある。
3 高抵抗始動型の自動電撃防止装置は、その機能として容易に作動して出力側に不意に高い電圧を2次側に発生することがあるので、低抵抗始動型のものを選択すること
4 鋼製足場の上で溶接作業などが行われる場合には、足場をアースすること
5 鋼製足場の作業床の上に、溶接棒ホルダーを放置しないこと
溶接作業を中断する時には、併せて溶接機の電源を遮断し溶接棒ホルダーから溶接棒をはずしておく。
【業種】
その他の建築工事業
【被害者数】
死亡者:1人
不休者数:1人
出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害事例 (mhlw.go.jp)
排泥弁室内に持ち込まれた練炭により、被災者は、意識障害等の体調不良を訴え、救急搬送先の病院で一酸化炭素中毒と診断された
【労災事例】
災害発生前日、被災者は、農業用水路管の排泥弁室内に打設されたコンクリートが凍結しないように、養生用の練炭を排泥弁室内に持ち込んだ。被災者は、練炭に着火し、燃焼させた後屋外に戻り、マンホールに蓋をして排泥弁室内を密閉した。
翌日、被災者は排泥弁室内に置いた練炭の状況を確認するため、同室内に入った。次いで同僚作業員が入室したところ、排泥弁室内のダグタイル鋳鉄管にもたれ掛るようにぐったりとしている被災者を発見した。
発見者は、救援のため駆け付けた別の作業員とともに、被災者を救出した。被災者は意識が朦朧としていたため直ちに救急車を要請し、搬送先の病院にて一酸化炭素中毒と診断された。
【原因】
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 通風・換気が不十分な室内で練炭を燃焼させた後、換気を行うことなく入室して一酸化炭素を吸引したこと。
2 一酸化炭素の有害性等の安全衛生教育が不十分であり、練炭を使用する際の作業手順書を明確に定めていなかったこと。
【対策】
類似災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 自然換気が不十分な場所では、練炭、バーベキューコンロ、内燃機関、石油ストーブやガスストーブ等を使用しないこと。
2 やむを得ず、自然換気が不十分な場所で練炭等を使用するときは、換気・排気を十分に行うこと。
3 救助にあたっては、救助者は空気呼吸器又は送気マスクを着用すること。尚、一酸化炭素用防毒マスクは、酸欠が同時に発生している場合は、酸欠症に対して無効であるため使用しない。
4 一酸化炭素は、特定化学物質等障害予防規則(特化則)の第3類物質に指定されている極めて毒性の高い気体であるため、関係労働者に対し、一酸化炭素の有害性等の安全衛生教育を実施するとともに、練炭等を使用する際の作業手順書を定めること。
【業種】
河川土木工事業
【被害者数】
不休者数:1人
出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害事例 (mhlw.go.jp)